日記

2023-11-25 13:57:00

サロベツ牛乳

近くのスーパーで見つけた「サロベツ牛乳」

北海道最北端に位置し、広大なサロベツ原野を開拓した農地の牧草を使って生産された牛乳です

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サロベツ原野では、大作映画「人間の條件」(1961)のロケが行われました。雪原に倒れた主人公(仲代達矢さん)の上に雪が降り積もる圧巻のラストシーン。いつまでもカットと言わない監督の指示でずっと寒さに耐えた仲代さんが「本当にこのまま死ぬかと思った」そうです。

この映画は、旧満州帝国を舞台とし当時の国際情勢からサロベツでの撮影が行われたものです。奇遇ですがサロベツ原野を開拓したのはその満州からの引揚者でした

この開拓を指導したのが、満州移住協会参事として満州開拓の立案、送出、指導を行った松川五郎氏

松川氏が満州に送り出した青年の一行120名余りが命からがら帰国して、その後サロベツ原野を含む宗谷の土地に入植したものの「どうしてもうまくいかない」という彼らの困窮を救うために、松川氏は札幌の農協組合長の職を辞して私財をなげうって開拓指導にあたっていました

北海道の開拓は、すでに戦前に立地条件の良い場所は開拓済みで、戦後の引揚者が開拓した場所はサロベツ湿原のように、今まで誰も手をつけられなかったような劣悪な場所しかありませんでした

戦後の開拓を担当した行政官が、「入ったら死ぬわ」と言ったサロベツ原野の開拓は大変なものでした。湿原ですから、置いておいた作業機が、一晩で跡形もなく湿原内部に沈んでしまうこともあったそうです

「人間の條件」の映画の五年後、1966年にこの松川氏がサロベツの開拓農民、阿部又右衛門さんにあてた手紙の一節にはこのような記載があります

「(前略)北海道の農業についていろいろと考えさせられています。ともかく日本が食糧を外国に依存している間、すなわち日本が日本の農業に頼らないという風潮が是正されない以上良くなりっこありません。(後略)」

今から20年ほど前のこと。前職でサロベツ原野における自然環境の保全と農業開発の両立を図る計画作りに農業側の担当者として参画した際、サロベツ原野の開拓に関わってこられた方より、「まず歴史を知っておきなさい」と多くの資料をいただいた中にあったものです

京都でサロベツ牛乳をいただきながら、サロベツに関わった多くの先人たちに思いをはせています

食べ物を五感でしっかり味わうことが、生産地の風景や生産者の思いを感じるきっかけになることを願って「味の教室」の活動をしています

 

2023-11-24 20:51:00

昔からの砂糖屋さん

京都には、昔からの専門店がところどころに残っています。

今日は、近くの商店街の砂糖屋さんに立ち寄りました。

写真は上段左から「波照間黒糖」、「赤砂糖」、「グラニュー糖」、「五温糖」です。

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「黒糖」は知っていますが、「赤砂糖」「五温糖」ははじめてです。

「赤砂糖」って何?と聞いたら、奥から袋を持ってきてくれました。

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種子島の国産のお砂糖だよ、と説明してくれました。

「五温糖」も聞きたかったのですが、高齢のご主人にまた重そうな袋を運んでいただくのは気の毒に思え、遠慮しました。

またの機会にしましょう。

最近、店主の高齢化にあわせて閉店するお店も多くなりましたが、こうしたお店が少しでも長く残ってほしいものです。

種子島には行ったことがありませんが、行った気分になって少しなめてみました。

2023-11-23 21:21:00

驚きの皮膚感覚

俗に「肌感覚」という言葉がありますが、表皮には様々な感覚の受容体があることが最近明らかになっています。

肌で温度や痛みなどを「知覚」しているのは、表皮に「感覚」があるからです。

さらに表皮には、可視光や高周波音に対する「感覚」があるそうです。

これらは意識化されることはありませんが、内分泌系、免疫系、神経系など無意識の領域でわれわれの全身生理や情動に影響している可能性があるそうです。

子どもたちが食材を思いっきり触りながら、時に「えっ?!」と思うような発言をすることがあります。袋の中に手を入れて触りながら見えるはずのない色の発言をしたりとか。

あてずっぽうに知っている言葉を言っただけか、手を入れる前に袋の中をのぞき見したためとは思いますが、「ひょっとして、子どもは表皮で見れるのかしら?」などと、こちらも楽しい想像をしています。

2023-11-23 15:00:00

食材を使った感覚あそびのすすめ

子どもと食材を使った感覚遊びをしませんか?

子どもの脳神経の発達に重要な五感の刺激

TVやスマホでは得られない触覚、嗅覚、味覚の刺激

規格化された人工物では得られない自然の持つ多様な刺激

食材は私たちに最も身近な「自然物」

この食材を使った五感体験活動がお家でもできるように

2歳児からの食材を使ったリモート&リアル型自然体験学習

のビデオ教材を本会ホームページにアップしています

昨年度は「昆布」、「大豆」、「人参」を作成し

今年度は「りんご」、「ピーマン」、「煮干し」、「小麦」を作成中です

子どもゆめ基金様の助成をいただいたもので、どなた様も自由にご覧いただけます

 

2022-04-06 19:03:13

五感を使う楽(愉)しみを「なかひがし」から学ぶ ~日本料理、茶道、サペレメソッド~

ある保育園で園長さんと主任さんに、大根を使った食育の提案をしました。ずいぶん熱心に聞いていただいたのですが、最後にある話をしたら、お二人から「いやあああああー、私たちそんな大根かわいそうで食べられない」と叫ばれてしまいました。

 

京都で最も予約のとれない店、と言われる日本料理「草喰なかひがし」の店主、中東久雄さんの著書「自然を喰む 草喰なかひがしの食べ暦」が先月末に出版されました。

摘草料理で有名な美山荘の料理長をつとめられた中東さんが独立して「草喰なかひがし」を開店して今年で25年。食材を常に「生き物」として扱い「命をいただきます」という姿勢が、料理にとどまらず書物でも表現されることになりました。自然界の一員であると共に食物連鎖の最上位に位置する私たちが、自然とどう関わっていくべきかを、中東さんは料理の提供を通して、私たちに問いかけています。彼の料理を味わうことで、私たちは食から食材の命や生産現場の環境問題にまで、思いをはせることができるのです。

 

どうしてそんなことになるのか考えてみました。私たちが彼の料理から何かを感じることが出来るのは、彼の料理が「五感を使って楽しむ」よう作られていることに気が付きます。これには彼が学んできたお茶の文化の影響を感じます。お茶は、小さな茶室の中で、掛け軸や一輪の花を見て楽しみ、静かな室内でお湯が沸き、茶筅でお茶をたてる音を楽しみ、器の触感を楽しみ、お菓子やお茶の味、香りを楽しむ、文字通り五感を総動員する時間です。狭い空間の中で五感を集中して使うことで、主人の意思や想いについて感じとり、主人と客が心を通わせることができる楽しい時間なのです。

 

「草喰なかひがし」の店内には、カウンター越しに「おくどさん」が鎮座し、その熱、音、匂いを感じることができます。まるで茶室の囲炉裏のようです。店内には奥様が活けた花(秘密らしいのですが写真集もあるそうです)。そして面白そうな器を見つけた古道具商さんから直接入手している器の数々。

 

私は50歳近くになってから国家公務員の仕事を辞めて、栄養士の資格取得のため京都の栄養士養成校に通いました。養成校のフランス料理の先生が珍しい生徒に目をかけてくれて、中東さんを紹介してくれました。日本初のオーガニック牛乳を前職で関係のあった北海道から取り寄せて持参したところ、中東さんはその風味から牧場の風景を想像され、その風味を気に入っていただき、彼のお店でメニューの最後にコーヒーと一緒に提供される「蘇(牛乳を煮詰めて作ったもの)」の原料として使われています。

 

その後、川に遡上した鮭の採卵後の身を利用して加工された鮭節を紹介させていただきました。鰹節とは異なり、グルタミン酸が多く野菜の風味を生かす素材として活用いただいています。そんな縁もあって私が北海道内をご案内させていただいた様子なども著書で紹介されています。本には書かれていませんが、中東さんとお付き合いのある誰もが同じように感じると思うのですが、彼はどこに行っても本当に美味しそうに食べるんです。この人は本当に食べることが好きなんだ、と確信を持って言えます。

 

私達が保育園等で実践するサペレメソッドは、食を五感で感じ、その思いを食べた者同士、時にはお友だちや先生や親と表現し、共感しあうことで、心と心が通じ合うことを手助けするものです。茶道や中東さんの料理は、いわば大人向けのサペレメソッドです。今回の中東さんの本は、そうした観点から、五感を使った食や食育に携わる人にはとても参考になる本で一読をお勧めします。

 

彼の本の中では小学校で大根を栽培して、その皮をはじめ全て余すことなく食べる食育の取り組みが紹介されています。大根が可愛らしい双葉からだんだん成長し、時に固い土ではネジのように土をこじあけるように回りながら成長する姿を観察するのも楽しいですし、葉っぱの美味しさや紫の可憐な花も知ってもらいたいものです。そんな大根を利用した食育をやりたいねと中東さんと話をして、近くの保育園で紹介しました。

 

大根を土から引き抜く収穫時には、大根の側根がちぎれて土から離れます。中東さんは、この様子を「まるで乳飲み子を母親の乳房から引き離すような気がする」と表現されます。私は、中東さんらしい上手な表現だと思って保育園の園長先生や主任さんに紹介したのですが、先生方からは「いやあああー、私たちそんな大根、かわいそうで食べられない」と言われてしまった次第です。

朝の保育園では、送りに来たお母さんから離れたくない子どもが泣き出すのは日常茶飯の光景。保育園の先生方には表現が少しリアル過ぎましたね。

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